東京高等裁判所 平成4年(行ケ)106号 判決 1993年1月26日
原告 高瀬愼一
被告 株式会社江戸金
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成1年審判第647号事件について平成4年3月26日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、別紙のとおり、「瓦そば」の文字を縦書きしてなり、指定商品を第32類「そばめん、中華そばめん」とする登録第2050583号商標(昭和60年3月7日登録出願、昭和63年2月26日登録査定、同年5月26日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるところ、被告は、平成1年1月10日、本件商標の登録の無効審判を請求し、平成1年審判第647号事件として審理され、平成4年3月26日、「登録第2050583号商標の登録を無効とする。」との審決がされ、その謄本は同年4月30日、原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 本件商標の構成、指定商品は前1記載のとおりである。
(2) 請求人(被告)は、本件商標の登録を無効とすべき事由として、本件商標の登録査定当時、「瓦そば」の名称は、「熱くした瓦の上に、ゆでてサラダ油で炒めたそばと具を乗せて調理し、めんつゆにつけて食べるそば」を意味するものとして山口県川棚温泉等において広く普及し、被請求人(原告)のみならず多くの業者が「瓦そば」の名称でそば料理を提供し又は持ち帰り用そばを販売してきたものであるから、本件商標は、その指定商品との関係において、単にその普通名称ないし用途・品質等を表示するにすぎないものであって、商標法3条1項1号又は3号に該当し、かつ同条2項に該当するものではないので登録が認められないにもかかわらず、誤って登録されたものである旨主張した。
被請求人(原告)は、本件商標は、商標権者である原告が昭和36年12月7日から商品「そば」の関係で継続して使用して現在にいたっており、登録査定時には、「瓦そば」といえば即原告の瓦そばを想起する程周知、著名となっていたもので、商標法3条2項に該当するものであり、登録を無効とすべき事由はない旨主張した。
(3) よって判断するに、
<1> 「別冊食堂・そば、うどん第14号」(昭和59年6月5日株式会社フードビジネス発行)34頁には、川棚温泉を紹介する記事中において、瓦そばについて、「熱した瓦に油で炒めたそばを盛り、その上に牛肉、錦糸卵、海苔、きざみねぎをのせ、これを味醂のきいた独特のつゆにつけて食べるもので、昭和37年に登場したが、温泉街には同じような内容のそばを提供する旅館や食事処も少なくない。」旨が記載されている。また、「麺類百科事典」(昭和59年6月18日株式会社食品出版社発行)44頁には、「かわらそば・瓦蕎麦とは、山口県豊浦郡豊浦町の川棚温泉の名物料理で、熱くした瓦のうえにゆでてサラダ油で炒めた茶そばと一緒に、牛肉、錦糸卵、ネギ、海苔とレモンともみじおろしを乗せたもので特製のつゆで食べる。山口市の湯田温泉、九州は宮崎・熊本両県の一部でも瓦そばが散見される。」旨が記載されている。
<2> 次に、この「瓦そば」の名称の使用例をみると、
(イ) 証拠によれば、被請求人の使用については、「瓦そば たかせ」、「元祖・瓦そば『たかせ』」、「山口川棚温泉『たかせ』の瓦そば」のごとき用例で使用されていることが認められるが、他方、前掲「別冊食堂・そば・うどん第14号」の35頁中段において、「元祖“瓦そば”たかせ」の記載のすぐ右の側に「旅館おた福の“瓦そば”」のごとく、複数の使用者が併記されている。また、「山口味どころ」(昭和61年3月1日TYSテレビ山口企画発行)22頁にも、川棚温泉にある「麺食亭」の看板料理は「瓦そば」である旨が記載されており、その40頁にも、たぬき茶屋(小野田市)の主力商品は「瓦そば」である旨の記載があり、いずれもその使用者は被請求人以外の者である。
また、川棚グランドホテルおた福が昭和52年11月22日から同60年1月3日の間に掲載した新聞広告には、同ホテルの名物料理は「瓦そば」である旨が記載されている。
以上の証拠によれば、「瓦そば」の名称は、被請求人が使用するほかに、山口県川棚温泉においてのみならず、小野田市、山口市湯田温泉、宮崎県・熊本県の一部でも前記と同様の調理方法で食されるそば料理の名称として、本件登録査定前に使用されており、「瓦そば」の名称は、料理名として山口県及びその近県において相当広く使用され、知られていたことを認めることができる。
提出された多くの証拠からすると、その「瓦そば」の名称の使用は、多くは、料理名として使用されたものであって、商標上の商品としての「そばめん、中華そばめん」について使用されたものではないと認められる。
しかし、昭和54年10月25日付けの中国新聞及び料理店「たかせ」の営業案内パンフレットの中には「お持ち帰り用瓦そば(1人前800円)」、「瓦そばのお持ち帰りもどうぞ」という記載があることから、被請求人は、一種の加工食料品として「瓦そば」料理の小売も行っていたことを認めることができる。
(ロ) また、昭和60年度及び61年度用の大丸シーモール下関のお歳暮用商品カタログには、請求人が販売する商品として「江戸金 瓦そばセット<干そば(茶そば)とつゆ>」、「長州名物 瓦そばセット<干そば(茶そば)とつゆ>」の記載があり、また、請求人が昭和60年9月13日から同61年4月25日までの間に朝日新聞等にした新聞広告には、請求人と取扱商品について、「下関名物 瓦そば(干そば、特製瓦そばつゆ・具とやくみ付)」等の文言による広告が掲載されていることが認められる。
これによれば、請求人によって、商品「干そば(乾燥させたそばめん)」について「瓦そば」の名称が本件登録査定前に使用されていたことが認められる。
更に、株式会社川棚グランドホテルおた福が地元の豊浦郵便局と提携して昭和61年10月より瓦そばの宅配便を開始したことを報じた同月7日付山口新聞等の新聞記事その他の証拠によれば、加温するだけで手軽に食べられる保温用の発泡スチロールのボックスに詰めて小包郵送される瓦そば料理が「瓦そば(料理したそば、肉、ネギ等を真空パックしたもの)」の名称をもって第三者により販売されていることを認めることができる。
<3> 以上のことからすると、「瓦そば」の名称は、被請求人が山口県川棚温泉にある料理店「たかせ」において昭和36年12月7日より提供した前述の調理方法によるそば料理の略称として使用し(甲第3号証及び第4号証から認めることができる。)、同店及び「瓦そば」の名称は、「元祖・瓦そば・たかせ」等の用例によって山口県川棚温泉及びその近隣地域においても相当程度知られるに至っていたことを認めることができる。
<4> しかし、「瓦そば」の名称は、本件登録査定前において、請求人のみならず他の複数の同業者により、「そばを錦糸卵、ネギ等の具とともに特製のつゆにつけて食するそば料理」の名称として使用されていたにとどまらず、「下関名物、瓦そば(干そば・特製瓦そばつゆ・具とやくみ付)」のごとき使用例により、商品「干そば」(乾燥させたそばめん)の品質、用途を表示するものとして使用され、更には、一種の加工食料品と認められる、「真空パックした調理済みのそばめん(具と特製つゆ入り)」の名称として広く使用されてきたものである。
また、「瓦そば」は、その調理に際し、これを炒めて食されるそばめんであるところ、「中華そばめん」も、焼きそばとして、炒めて食される商品であると認められる。
<5> 以上の事情に鑑みると、本件商標は、その登録査定時において、その指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、「瓦そば料理に適したそばめん、中華そばめん(換言すれは、瓦そば用のそばめん、中華そばめん)」であることを容易に理解し、認識するに至っていたものというべきである。
したがって、本件商標は、商品の品質、用途を表示するにすぎないものであるとともに、自他商品を識別する標識としての機能を果たし得るものとみることはできないものである。即ち、本件商標は、被請求人がその指定商品に使用した結果、取引者、需要者が何人の業務に係る商品であるかを認識することができるに至った商標であると認めることができないものである。
(4) したがって、本件商標の登録は、商標法3条1項3号、2項の規定に違反して登録されたものであるから、同法46条1項1号の規定により、これを無効とする。
3 審決の取消事由
審決の(1) 、(2) 、(3) <1>の認定、<2>(イ)の刊行物の記載事項の認定並びに<2>(ロ)及び<3>の認定、判断は認めるが、その余の認定、判断は争う。
審決には、本件登録査定時、川棚温泉にある原告の料理店「たかせ」及びそこにおいて提供したそば料理の「瓦そば」の名称が同温泉及び近隣地域において相当知られるに至ったことを認定しながら、「瓦そば」の名称によっては、取引者、需要者が、原告の業務に係る商品であると認識することができないと判断した理由齟齬の違法があり、また、本件商標の周知性の判断において、被告その他の同業者が原告に無断で「瓦そば」の名称を使用しているにもかかわらず、それらの者による「瓦そば」の名称の使用の状態を考慮に入れて、「瓦そば」の名称が商品の品質、用途を表示するものにすぎず、本件商標は、商標法3条1項3号に該当し、かつ同条2項に該当しないと判断し、もって本件商標登録を無効とした違法があり、取消しを免れない。
(1) 取消事由<1>
本件商標は、原告が昭和35年末頃より山口県川棚温泉の現在地において、同温泉地域活性化のための名物と称するに値するものを案出すべく試行錯誤を繰り返しながら種々努力した結果、熱した瓦の上に油で炒めた茶そばを盛り、その上に牛肉や錦糸卵、海苔、刻みネギ等の薬味を乗せ、これを独特のつゆにつけて食する従来にない料理ないし調理品を完成するに至り、これを「瓦そば」と命名し、昭和36年12月7日から、当時の「たかせ旅館」(現たかせ別館)において、一般顧客への「瓦そば」の提供ないし販売を開始したが、評判が評判を呼んでマスコミにも種々取り上げられ、本件商標の登録査定前の昭和55年頃には、川棚温泉地区及び北九州地区を含めた近隣地域において、「瓦そば」といえばたかせという程、原告の提供する料理及び販売するそばめん等の商品を表示するものとして周知著名化していたものである。
審決は、その理由(3) <3>において、本件商標の周知性を間接的に肯定しながら、<5>において、本件商標は、商品の品質、用途を表示するにすぎないものであるとともに、自他商品を識別する標識としての機能を果たし得るものとみることはできないと判断して、本件商標が商標法3条2項に該当することを否定したものであり、理由齟齬の違法がある。
(2) 取消事由<2>
審決は、原告以外の業者が「瓦そば」の名称を使用していたことを認定し、これにより、本件商標の周知性を否定したものであるが、原告以外の業者は、原告の瓦そばの人気に着目し、原告の許諾を得ることなく、「瓦そば」の名称を使用して、原告の販売ないし提供に係る元祖瓦そばとは似て非なる味の類似商品の販売を行ったものである。
それらの業者の行為は、原告の永年の努力の結果形成された信用に只乗りする行為であり、不正競争防止法1条1項1号又は2号に該当する違法な行為であるから、審決は、このような第三者の使用を理由に、本件商標が商標法3条1項3号に該当するものと判断し、又は同条2項に該当しないと判断したことは誤りである。
因みに、商標法32条は、不正競争の目的をもって商標を使用する者に対しては先使用権を認めないこととしているが、本件の場合においても、原告以外の業者による「瓦そば」の商標の使用は、原告が永年努力の結果獲得した顧客吸引力・信用に只乗りするものであるから、これらの不正使用による既得権益は否定されるべきであり、これらの不正使用によって本件商標が一般名称化したと判断することはできないものである。
なお、原告は、これらの業者による只乗り行為を黙認してきたわけではなく、違法使用行為に備え、商標上の商標権を確立して原告の信用の保持に努めるとともに、流通秩序の維持を図るべく、昭和52年11月8日、本件商標と同一の「瓦そば」を表示してなる商標について商標登録出願を行ったが、先願として存在した「カハラ」を要部とする商標に類似するとして拒絶された経緯がある(甲第7号証、第8号証)。
第3請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1及び2は認める。
2 同3は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
(1) 取消事由<1>について
本件商標の登録査定時において、「瓦そば」といえば「たかせ」という程度に周知著名化していたという事実はない。
原告は、審決が本件商標の周知著名化を間接的に認定している旨主張するが、審決の「『瓦そば』の名称は……相当程度知られるに至っていることを認めることができる。」との認定は、「瓦そば」の名称により、需要者が原告の提供する料理及び販売するそばめん等の商品であると認識できると認定しているものではなく、審決に理由齟齬の違法はない。
原告は、昭和55年頃には、本件商標は、自他商品の識別機能として十分に機能していたとするが、事実に反する。
昭和55年当時には、原告以外の多数の者が、既に「瓦そば」の名称で調理そばを提供していた。特に旅館おたふく(現川棚グランドホテルおた福)が「瓦そば」の名称でメニューに加え、かつ持ち帰り商品として販売を開始し、川棚温泉の名物として「瓦そば」を強力に宣伝している。今日、「瓦そば」が川棚温泉の名物として知られるに至っているのは、同旅館の強力な宣伝努力によるところが大きいのである。したがって、昭和55年当時、原告の商品ないし営業を表示するものとして「瓦そば」の名称が需要者に認識されているようなことはありえない。
(2) 取消事由<2>について
原告は、川棚温泉を初めとする山口県や九州地方において「瓦そば」の名称で多数の者が、原告とは無関係に調理そばを提供し、その一部は持ち帰り商品となっていたことを熟知しながら、出願手続においては、それらは原告の許諾の下に使用している旨の虚偽の主張をし、もって商標法3条2項の適用を受けて登録査定がされたものであるが、本訴において、第三者の使用は、従来の「原告の許諾を得た者のみである」との主張から「原告の許諾を得ない不正競業者」であるとの全く相反する主張に変更したものである。かかる主張は禁反言の原則からして、許されない。
また、原告は、原告以外の者が原告の許諾を得ることなく「瓦そば」の名称を不正使用したことによっては、本来商標の周知性、著名性を阻害する要因とはなりえない旨主張する。
しかし、原告が適用を主張して本件商標登録が認められた商標法3条2項は、登録査定時において、ある商標が使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるか否かが判断の基準になるものである。出願人だけでなく、多数の者が同一の名称を使用している状態があれば、それが不正競争であろうとなかろうと、需要者は当該名称を特定の者の業務に係る商品、営業と認識することはできないので、同規定が適用される余地はない。
原告は、不正競争の目的のある先使用者は保護されないとする商標法32条を引用するが、商標法3条2項は、一般的には識別力を有しない商標が使用により特定の者の業務に係る商品と客観的に認識できるに至っているか否かが問題なのであって、両者は立法趣旨が全く異なるものであり、原告の主張は理由がない。
理由
第1請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
また、審決の(3) <1>の認定、(3) <2>(イ)の刊行物の記載事項の認定並びに(3) <2>(ロ)及び<3>の認定、判断は当事者間に争いがない。
第2そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。
1 成立に争いのない甲第9号証(原告作成の報告書)及び甲第10号証(「『日本の蕎麦』刊行委員会編「日本の蕎麦」毎日新聞社昭和56年5月1日発行)によれば、原告は、昭和35年11月、川棚温泉の名物となる従来にない料理の考案を開始し、約1年の年月をかけて、熱した瓦の上に油で炒めた茶そばを盛り、その上に牛肉や錦糸卵、海苔、刻みネギ等の薬味を乗せ、これを独特のつゆにつけて食する料理を完成し、これを「瓦そば」と命名し、昭和36年12月7日から、当時の「たかせ旅館」(現たかせ別館)において瓦そばの料理を提供を開始して、好評を博し、その後、それに併せて、瓦そばを持ち帰り用のものにして販売をしてきたこと、たかせの瓦そばは、昭和54年には、テレビの料理番組に取り上げられたり、昭和56年発行の日本の蕎麦を特集した雑誌に掲載される等、山口県川棚温泉や近隣地域において相当程度知られるようになっていったことを認めることができる。
しかし、当事者間に争いのない審決の理由の要点(3) <1>認定の刊行物の記載事項、並びに(3) <2>(イ)(ロ)及び<3>認定の「瓦そば」の名称の使用例に関する事実によれば
(a) 「瓦そば」は、本件登録査定時、熱した瓦の上で油で炒めた茶そばを盛り、その上に牛肉や錦糸卵、海苔刻みネギ、等の薬味を乗せ、これを独特のつゆにつけて食する食品を表示するものとして、山口県川棚温泉のほか、山口市の湯田温泉、小野田市、宮崎県及び熊本県の一部で用いられていたことが刊行物に記載され、一般の需要者に広く知られていたこと、
(b) 審決認定の複数の業者が「瓦そば」の名称を用いて上記の食品を、飲食店や旅館で料理として顧客に提供し、特に山口県川棚温泉において、原告の提供するたかせの「瓦そば」のほか、川棚グランドホテルおた福の「瓦そば」、麺食亭の「瓦そば」等が知られ、「瓦そば」はいわば川棚温泉の名物料理を表示する名称として知られていたこと、
(c) また、「瓦そば」は原告において持ち帰り用そば「瓦そば」として販売していただけでなく、被告において百貨店のお歳暮用商品として「江戸金 瓦そばセット」、「長州名物 瓦そばセット」として販売され、さらに川棚温泉グランドホテルおた福においても地元郵便局との提携により「瓦そば」の名称でパック商品として販売されていたこと、が認められる。
以上の事実によれば、「瓦そば」は上記の材料を用いたそば料理の名称として知られていただけでなく、商品そばめんの品質、用途を表示するものとして普通に用いられていたというべきであり、「瓦そば」が自他商品を識別する標識としての機能を果たし得ないことは明らかである。
本件登録査定当時、たかせの「瓦そば」が顧客に提供あるいは販売する「瓦そば」が相当程度知られていたといっても、それは、たかせ旅館が販売する瓦そばが「たかせの瓦そば」として一定地域の取引者、需要者に知られていたというにすぎず、「瓦そば」という名称自体が原告の業務に係る商品として取引者、需要者に認識されていたことを意味するものではない。
2 これに対し原告は、審決は、(3) <3>において、料理店「たかせ」の名称や「瓦そば」の名称は、川棚温泉及び近隣地域においても相当知られるに至ったことを認定しながら、本件商標の周知性を否定したことを理由齟齬である旨主張する(取消事由<1>)が、(3) <3>は、料理店「たかせ」の名称や「瓦そば」の名称が相当程度知られるに至ったことを認定しているのみであり、審決は、<4>で認定した被告その他の同業者の「瓦そば」の名称の使用の実態を併せ考慮した上で、本件商標の周知性を否定したものであり、審決の原告主張の箇所が、「瓦そば」の名称が原告の提供する料理又は商品を表示するものとして取引者、需要者に認識されていたことを認定したものでないことは、審決の理由の要点から明らかである。
よって、原告の上記主張は理由がない。
また、原告は、被告その他の同業者が原告の許諾を得ることなく「瓦そば」の名称を使用したことは、不正競争防止法1条1項1号又は2号に該当する違法な行為であるとして、その事実を商標法3条1項3号又は2項の判断において考慮に入れ、もって審決が本件商標は商標法3条1項3号に該当するものであり、かつ同条2項に該当しないと判断したことを誤りとする(取消事由<2>)。
しかし、同条1項3号が商品の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標については登録することができないこと規定しているのは、そのような商標は、自他商品識別機能を欠き、したがってまた、特定の人のみに独占的に使用させるのが相当でないことによるものである。
そして、同条2項は、そのような商標であっても、使用されたことにより自他商品識別機能を取得した場合には、例外的に商標登録を認めるものである。
なるほど、「瓦そば」の料理及びその名称は原告の創案に係るものではあるかもしれないが、永年にわたり、原告から差止を請求されることもなく、多くの業者によって「瓦そば」の名称がそば料理あるいはそれをパックした商品等に使用されて、「瓦そば」の名称が、原告が提供するそば料理又は販売する持ち帰り用そば料理だけではなく、他の多くの業者が提供するそば料理又は販売するそば料理をパックした商品をも表示し、いわば、山口県川棚温泉の名物料理、商品を表示する名称として周知、著名になったような本件の場合においては、その名称は、自他商品識別機能を有しないものとなっているものである。
したがって、審決が、原告が本訴において主張する、被告その他の同業者の「瓦そば」の名称の使用は、原告の許諾を得ることなくされたものであるとの事実(もっとも、そのような事実は、審判手続において主張されてはいない。)について考慮を払うことなく、本件商標が商標法3条1項3号に該当し、かつ同条2項に該当しないと判断したことは正当であり、何ら誤りはない。
3 以上のとおり、審決の違法をいう原告の主張は理由がない。
第3よって、審決の違法を理由にその取消を求める本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田稔 成田喜達 佐藤修市)
別紙<省略>